先ほど久しぶりにCICで自分の個人信用情報を紹介したところ、ワイジェイカードが「法廷途上与信」に基づいて私の信用情報を閲覧していました。そういえば途上与信って具体的に何をするものなんだろう?と疑問に思う方も多いと思います。クレジットカードの審査はカードが発行されたら終わりではありません。定期的な途上与信が行われ、そこであなたとクレジットカード会社の関係が変わってしまうことさえあります。
今回はこの「途上与信」について、クレジットカード会社が、
- 何のために、
- どれぐらいの頻度で、
- どのように、
行うものか、という点について説明したいと思います。
途上与信とは?
「途上与信」は契約開始時 (クレジットカード申込み時) と比べて、今の状況がどう変化しているかを知るために行います。カード申込み時と現在の最新の状況が同一とは限らないからです。具体的に言えば、自社を含めた利用状況や返済状況の近況を知るために会員の個人信用情報を照会します。やっていることは入会審査プロセスの一部そのものです。
例えば、クレジットカード申込み時にはクレヒス良好、借入ゼロだった人がいつの間にカードローン残高200万、リボ残高300万になっている可能性もあるわけです。そういう優良とは言えなさそうな会員に早い段階で対処したり、逆に他社でも良好なクレヒスを積みあげている人や債務が大幅に減った人などを見つけてより多くの与信枠を与えたりするために行います。
いくつか例を挙げてみましょう。
途上与信の例 (1) 会社員のAさんの場合
Aさん、30歳男性、年収600万、借入なし。
××クレジットカード申込み時にはその属性で、無事にクレジットカードが発行されました。ショッピング枠100万円・キャッシング枠10万円。しかしその半年後にカウカ〇ファイナンスからカードローンで50万円借り入れ、更にその3か月後には他社のクレジットカードでリボ残高が100万円に膨れ上がっており、xxクレジットカードの支払いもAさん本人によりリボ払いに切替えられていたとします。
xxクレジットカード社は入会一年後の途上与信でこの事実を知りました。自社のクレジットカード申込み時とはかなり状況が異なります。
xxクレジットカード担当者が、『ショッピング枠100万円の返済能力ありと見て多めの枠を付与しているが、その後のカードローン50万円とリボ残高100万円は何だろう?もしかしてこの人はお金に困っているのか?』という風に考えるのも無理はありませんよね。
結果としてAさんはある日突然、xxクレジットカード社から通知を受け取ります。
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【重要なお知らせ】ショッピング枠の見直しについて
平素よりxxクレジットカードをご愛顧いただきましてありがとうございます。さて、この度A様のご利用状況を考慮した結果、総合的な判断によりご利用枠の見直しをさせていただきました。~~
- ショッピング枠 100万円 → 50万円
- リボ・分割払い枠 100万円 → 30万円
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こんな風に、クレジットカード会社は自分のリスクを出来るだけ早く減らすべく、定期的に会員の他社を含めたクレジットカードやローンの利用状況を調査します。これが「途上与信」です。
途上与信の例 (2) 会社員Bさんの場合
Aさん、35歳女性、年収500万、50万円借入あり。
××クレジットカード申込み時にはその属性で、何とか無事にクレジットカードが発行されたとします。ショッピング枠30万円・キャッシング枠0円。いわゆる温情発行です。しかしその半年後にはカウカ〇ファイナンスへの50万円の借り入れを完済し、更にその3か月後には他社のクレジットカードを発行しショッピング枠が80万円もらえました。
xxクレジットカード社は入会一年後の途上与信でこの事実を知りました。良い意味で自社のクレジットカード申込み時とは全く状況が違います。Bさんは毎月10万円も自社のカードで決済してくれているし借り入れもなくなった今、彼は優良会員予備軍です。
xxクレジットカード担当者は、『30万円なんて少なすぎる。もっと彼にお金を使ってもらわないと。』と考え、Bさん自身から増枠申請が来る前に以下のお知らせをBさんに送りました。
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【重要なお知らせ】ショッピング枠の見直しについて
平素よりxxクレジットカードをご愛顧いただきましてありがとうございます。さて、この度B様のご利用状況を考慮した結果、総合的な判断によりご利用枠の見直しをさせていただきました。~~
- ショッピング枠 30万円 → 100万円
- リボ・分割払い枠 30万円 → 100万円
- 海外旅行で便利なキャッシングサービスもご用意しております。どうぞご検討ください。
- 毎月お得な掛け金で日々の安心を~
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この様に、利用状況が良好で将来的に優良会員になってくれそうな人を囲い込むために、利用枠の増枠を積極的に行う目的で途上与信を行うクレジットカード会社もあります。こうした方針を取る代表的なクレジットカード会社としては、楽天カードが挙げられます。楽天カードはある程度の額を毎月使っていれば利用枠が育つのは早いです。
途上与信には二種類、「途上与信」と「法廷途上与信」があります
途上与信と法定途上与信、この2つの違いは、
- 途上与信 … あくまで各クレジットカード会社が任意で行う与信審査
- 法定途上与信 … 貸金業法で定められた、定期的に対象者に対して行う与信審査
個人信用情報を照会し、内容を確認するという審査プロセスの内容に変わりはありませんが、法で定められているかどうかが最も大きな違いです。キャッシングやカードローンなど、予め決められた枠の範囲内で何度も借入が出来るような包括契約においては、対象条件に該当する会員に対する「法定途上与信」が義務付けられています。
法定途上与信をかける条件
キャッシングやカードローンを利用中 (つまり現金借り入れ残高がある) 場合、以下の条件に合致すると法定途上与信が行われます。
- 1ヶ月の借入の合計額が5万円以上、かつ、借入残高が10万円以上の場合 → 毎月実施
- それ以外の場合でも借入残高が10万円以上の場合 → 3か月に一度実施
上記はいずれも貸金業法で定められた途上与信です。貸し手側には途上与信によって先んじてリスクを検知し、回避する努力をしなさいよ、という御上からのメッセージみたいなものでしょうか。そしてなぜ私のところに、借入残高が一円もないワイジェイカードから「途上与信」でなく「法定途上与信」として照会が入っていたのでしょうか。
それは、法定途上与信が、「割賦販売法」にも定められているから、です。
貸金業法・割賦販売法で定め(過剰貸付防止・返済能力調査の義務化)に従って契約中に信用情報を確認するための照会
引用元 : CIC
URL : https://www.cic.co.jp/mydata/report/documents/kaijishosai.pdf
リボ・分割支払い枠が付与されたクレジットカード会員に対しても途上与信するように、と定められているわけですね。
「通常の」途上与信が行われる場合
クレジットカード会社は以下の条件に合致する会員に対して、途上与信を行うと言われています。
- 入会申込時に申告された収入に対して、実際の支払い額が多い
- キャッシング利用頻度・金額が高い
- 入会申込み時の申告収入が低い
- 過去に支払いの延滞履歴あり
- 現役の信用情報ブラック
- 過去に信用情報ブラックだったと思われる
1.の場合、入会申込み時の年収から「支払い見込み可能額」を算出して、会員ごとのショッピング枠を決定しています。同様にキャッシング枠も貸金法による制限を考慮して決定されます。詳細は以下のページをご参照下さい。
さて、例えば申込み時の申告年収が400万円の方が毎月30万円の支払いをクレジットカードで行っていた場合、クレジットカード会社としては、「この人はどこからこのお金を調達しているのだろうか?」と考えます。そして、「もしかして他社から借り入れしてるのかな?」と考え、途上与信が行われる場合があります。
2.の場合、簡単に言えば、「この人は現金を何故こんなに何度も借りるんだろう?」と思われる場合があります。実は他社からの借り入れがあったり何か直近のお金の支払いに困ることがあるんだろうか?、と。自社への支払いを滞らせるリスク要因になる会員であっては困るため、こういう場合も途上与信で他社含めた借り入れ・返済状況をチェックします。
3.の場合、「とりあえずカードを温情発行してみたけど、本当に大丈夫だよな」というパターン。
4.の場合、自社で過去に1日~数日程度の延滞をやらかした方は念のために現状確認されやすいです。
5.および6.の場合、現在の属性がしっかりしているからクレジットカードを発行したけど、またこの人やらかしたりしないよね?大丈夫だよね?という確認で途上与信が入るケースがあります。カード会社としても会員を増やして利益を拡大することは大事ですが、債務焦げ付きを発生させるわけにもいかないのでこの辺りは慎重です。
途上与信でクレジットカードが強制停止されてしまうことがある?
ここからは、途上与信による影響としてクレジットカードが強制的に停止され、解約に至ってしまうケースについて紹介します。
まず、見出しの疑問形、「途上与信の結果、カード強制解約はあり得るのか?」という件について、残念ながら答えはYESです。
「ひ、ひと思いにショッピング枠を減らしてくれ…」
NO! NO! NO! ...
「キャッシング枠を減らす…?」
NO! NO! NO! ...
YES! YES! YES! YES! ...
他社での支払い延滞が発覚した場合
途上与信の結果によって、クレジットカードを止められてしまう原因として非常に多いのが、「他社での延滞が発覚した」というもの。
CICには毎月の支払い履歴が各クレジットカード会社や割賦購入している品物の販売元 (例えば携帯電話も!)によって記入されます。CICの履歴「未払い」を示すマークが記入されてしまった場合、途上与信をかけたクレジットカード会社にも、あなたが延滞をやらかしたことが分かってしまいます。
支払いの延滞は信用情報において大きなマイナスです。クレジットカード停止の一要因です。
参考
CICやJICCなどの信用情報機関への未払い履歴記入はクレジットカード会社次第です。数週間の延滞でも記載なし、と傍目にはおとがめなしに見えるときもあれば、1日遅れただけで記録されてしまう場合もあります。大半は3日~一週間程度の遅れであれば初回はおとがめなし (信用情報機関への延滞登録なし) というケースが多いようです。ただし何度もやらかせば1日の遅れでも延滞履歴が記録されてしまうでしょう。
※ 実際に会員のクレジットカード利用を停止するかは各カード会社の社内基準やその時々の状況に委ねられています。また、途上与信をかけたカード会社との間で長期間の(最低一年程度)信頼関係、つまり毎月ある程度の金額のきちんとした利用実績があれば、他社の延滞については2~3回は目を瞑ってくれることも多いです。
逆に言えば、自社との信頼関係も未熟、もしくは自社でも延滞を起こしており既に信頼自体が怪しい場合、他社延滞をトリガーに強制停止させてしまうことも。
自分の信用情報を開示してみたい方はコチラもどうぞ 今回はCICの個人信用情報の開示に関して、信用情報開示にかかる費用、窓口での信用情報開示の手続き、インターネット開示手続 ...
CIC情報を開示しよう!
他社からの借り入れ残高増・リボ残高の大きな増加が発覚した場合
クレジットカード会社や消費者金融と言った貸金業者からの借入 (キャッシング) 残高が年収の3分の1に到達すると、いわゆる「総量規制」にひっかかるため貸金業者はそれ以上の新規貸し付けを停止します。それ以上新規で借入を行いたい場合は、年収を増やすなり現在のキャッシング残高を減らす必要があります。因みに銀行系カードローンは総量規制の対象外となるため借入可能ですが、自分の首を絞めることになりかねないのであまりお勧めできません。
しかし、総量規制による「年収の3分の1まで」というキャッシング残高に関する規制はあくまで「最終防衛ライン」とでもいうもので、各カード会社はリスク回避のためにそのラインのもっと手前で規制をかけてくることがあります。つまり、途上与信を行うことでキャッシング利用が多い会員や他社含めたキャッシング残高の多い会員を洗い出し、申込み時の情報(勤務先・年収)やCIC記載の情報(最新の勤務先や他社のクレジット、キャッシング利用状況)から危なそうな会員の利用を停止することがあります。
※ 入会審査が緩いと言われている楽天カードは特にこの傾向が強い。積極的にリスクを取って会員を増やしつつ、自己破産前に警鐘を鳴らしてくれると考えれば良いカード会社です。
収入の増減や転職による勤務先変更、結婚や出産による家族構成の変化があった場合は、早々にクレジットカード会社へ申告しましょう。大抵はクレジットカード会員サイトのマイページなどで情報更新を行えるようになっています。
また、近年は総量規制によるキャッシング枠の限度が鮮明化し小さくなってしまったことから、各社ともリボ払いの金利による収入増加にシフトしています。こうした中で、信用情報において他社へのリボ残高が大きく増えた様に見えるのは途上与信においてあまり良い印象を与えません。普段の利用状況が良くない(延滞を何度かしている)会員の場合、減枠や利用停止の原因になり得ます。
リボ払いは計画的に利用するべきですし、実際に計画的に利用すれば各種キャンペーンに乗っかって最小限のリボ金利支払いでそれを超えるポイントを受け取る事も出来ます。ただし何も考えずにリボ払いをしているといつまで経っても借金の元本が減らない状態に陥ります。くれぐれもリボのご利用は計画的に!
増枠申請を行った場合
あまり属性の良くない方が増枠申請を行ったら、減枠されてしまった、利用を止められてしまった、というケースもあります。年収に全く見合わない(※)レベルまでの増枠申請を行ったりするとお金に困っていると思われたり、クレジットカードショッピング枠の現金化目的かと思われてカード利用を停止されてしまったという事例もあります。
※ 会員本人はそう思っていなくても判断するのはカード会社なので…
属性の悪い方が入会から一年未満の時点で増枠申請、とくにキャッシング枠の増枠を希望するのは非常に危険です。「自分は支払いが追い付かなくなる可能性がありますよ」と自らカード会社に教えてあげるようなものです。また、リボ利用残高が天井に張り付いている様な、いわゆるリボ天の方が増枠申請を行うと、「自分はヤバい人です」と大声で叫んでいるようなものなので、増枠申請はある程度入会から時間が経って、利用枠にも余裕のある時期に行いましょう。
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途上与信の頻度が多いクレジットカード会社
- 楽天カード
- アメリカンエキスプレス
この二社は他社と比較して飛び抜けて途上与信が多いです。どちらのカード会社も信用情報元ブラックの方でも現在の属性が良ければ温情発行でクレジットカードを発行することがあります。そのため、入会させてからも本当に信頼に足る相手かどうか、会員を見極めるために途上与信をかけます。
※ 我々個人がCICで自分の個人信用情報を開示すると、1回に付き500円(窓口)または1,000円(インターネット開示)かかりますが、クレジットカード会社はCICと包括契約を結んでおり、一回の開示にかかる手数料が実質数十円レベルで行えるようです。そのため、キャッシング枠の利用がなくても3か月~6か月に最低一度は途上与信を行い各会員の他社利用履歴と残高をチェックするわけです。
もちろん、危なそうな会員以外に優良会員の洗い出しも行うため、この二社は (特にアメックスは) 利用枠が育つのが他社と比較すると早いです。
おわりに
今回は以下の内容についてお話しました。
- 途上与信は何のために行われるのか
- 途上与信と法定途上与信の違い
- 途上与信によるクレジットカード強制解約の想定原因
最後まで読んで下さってありがとうございました。