来年10月の消費税増税による消費の冷え込みを抑止するための、「官製ポイント還元」ですが「協力事業者」として決済事業14社が内定した模様です。銀行系クレジットカード会社や既存の電子マネー、果てはスマホ決済サービス事業者まで様々です。ここまで面倒なことをやるなら増税しない方がいい気もしますが・・・。
そもそも、消費税の「ポイント還元」って何?
消費税率アップの発端
2019年10月から消費税が現在の税率である8%から、10%に増税されることは皆さまご存知の方も多いと思います。2011年、ときの民主党政権の野田佳彦首相の時期に決定され、2012年の総選挙で政権与党に返り咲いた自民党の安倍内閣が、庶民に嫌われるであろうこの政策を実行に移さざるを得なくなったのが実情です。
勘違いされることも多いですが、「消費税は増税しない」という公約を以て当選した旧民主党 (現 : 立憲民主党、国民民主党など) が財政の行き詰まりに白旗をあげて安易に公約を破ったのが発端です。とんでもない話ですね。。。
消費税を上げたら消費が落ちて景気が冷え込む → じゃ増税分ポイント還元
増税する分ポイントバックしてたら増税する意味があるんでしょうか、という根本的な疑問が湧き起こる人が多いでしょう。ここでいったん今ある情報を整理してみます。
ポイント
- 消費税率を8% → 10%へ
- 食料品など一部の物品は8%据え置き
- キャッシュレス決済を使った消費者に対して購入額の5%または2%をポイント還元
- 2019年10月から9カ月間の期間限定で検討中 (つまり東京五輪直前まで)
- 購入物や購入店舗の種類で還元率が変動
・中小小売店・飲食・宿泊 … 5%還元
・コンビニ・外食・ガソリンスタンドなど … 2%還元
・百貨店・病院・住宅など … 還元無し
消費税増税にかこつけて、庶民へはポイント還元をエサにして増税への不満をそらしつつキャッシュレス化を推進したい、というのが真の目的の様です。キャッシュレス化の目的は、「観光立国」の促進、特に2020年の東京オリンピック時の外国人観光客の消費促進が象徴的なマイルストーンとなる見込みです。
- 各事業者で競争させて、海外と比較して高い加盟店手数料を下げさせる
- 決済端末の普及を促す
- 高価な端末なしでもキャッシュレス決済を可能とする環境構築の推進
また恒久的なものではなく、期間限定で実施することで、最終的には10%分の消費税を長く払ってもらうつもり満々です。そりゃそうか。
経産省は年明け以降、対象となる中小小売店などと決済事業者との調整を本格化する。新原浩朗経済産業政策局長は同日、記者団に「(対象店舗には)リストを配布して周知し、(決済手段の)競争を喚起する」と語った。店側が負担する決済手数料を比較し、中小事業者の重荷となっている費用の引き下げを促すことで、キャッシュレス普及に弾みをつけたい考えだ。
(略)
店側の対応が整えば、利用者には各社が運営するポイントが還元される。今後、大手銀行主導のスマホ決済サービスも加わる見通し。
政府は消費税率10%への引き上げに伴い、小売店などで現金を使わない利用額のポイント還元に国費を投入する。来年度予算案に2798億円を計上し、来年10月から2020年の東京五輪開催前まで9カ月間実施する。
実際のところは、1960億円を還元するために838億円使ってシステムを構築する様です。もはや公共事業以外の何物でもないような・・・
システム開発はどこがやるんでしょうね。というか、もう仕様決めて作り始めてないと間に合わない気がするんですが。
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お店側もけっこう忙しいかも
食品など一部は8%据え置き、その他は10%ということで複数消費税率に対応したPOS端末が必須です。
また、キャッシュレス決済できないとポイント還元の対象外という事で、お得じゃないお店からの客離れが起きるのも必至です。否が応でもキャッシュレス化の波に巻き込まれます。
百貨店などのポイント還元対象外のお店は自社ブランドクレジットカードや既存スマホ決済サービスなどを使ってポイント還元キャンペーンを打つ羽目になるでしょう。そうでもしないと確実に客が離れそうです。
巻き込まれる側もたまったもんじゃないですね。
消費税増税対策のポイント還元を扱う14社、選定基準が曖昧過ぎる
クレジットカード以外の事業者も多く内定
官製ポイント還元を扱う決済事業者として内定した第一陣の企業は以下の14社です。クレジットカード、電子マネー、スマホ決済サービス、決済代行サービスから幅広く集められました。14社中、クレジットカード会社は4社しかいません。信用情報が悪化してクレジットカードを持てない人々が一定数いることを配慮した内容になっていると言えそうです。
◇経産省が示した決済事業者
【クレジットカード】
三菱UFJニコス (200万超)
三井住友カード (75万程度)
UCカード (150万程度)
JCB (200万超)
【電子マネー】
WAON (40万程度)
nanaco (35万程度)
Suica (43万程度)
楽天Edy (60万程度)
【汎用サービス】
楽天 (120万程度)
【スマートフォン決済サービス】
オリガミPay (2万程度)
Line Pay (10万超)
PayPay ( - )
【決済代行】
Coiney (5万程度)
Square (25万程度)
(注)カッコ内は加盟店数。(2018/12/27-22:58)
思惑と苦悩が見え隠れする内定事業者リスト
上記の、内定事業者リストを見てみるといくつか面白い傾向が見えてきます。そして「協力事業者」の選定基準がさっぱり不明で恣意的にすら感じられてきます。
クレジットカード会社だけに任せられない?
まずクレジットカード事業者以外に、電子マネーやスマホ決済事業者が内定している事。
リーマンショック以降、自己破産や債務整理を行った人が急増したことが今もクレジットカード事業の拡大に歯止めをかけているのかも知れません。日本のクレジットカード事業者は特に保守的な傾向があり、一度自社で強制解約になったり、信用情報に「異動」が付いている人は殆ど入会できません。
クレジットカードだけに事業者を限定すると参加者が増えづらく、この官製ポイント還元事業を成功させることは困難と見られたということでしょうか。
なぜセゾンでなくUCなのか
三菱UFJニコス、三井住友カード、JCBの三社は順当でしょう。いずれも銀行系のクレジットカード会社であり、特にJCBは日本発の国際ブランドです。これら企業の知見を活かしてもらう絶好の機会です。
また、これらの国内最大手クレジットカード事業者に並んでクレディセゾンでなくUCカードが名を連ねています。セゾン系列企業ではありますが、本体のクレディセゾンでなく何故関連カード会社のUCなんでしょうね・・・
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楽天は「クレジットカード会社」としてではなく「汎用サービス」扱い
そして取扱高が単体企業としてトップクラスに躍り出た楽天カードですが、クレジットカード企業としては内定事業者リストに含まれておらず、代わりに「汎用サービス」として「楽天」本体の名が挙げられています。
ひとつには先般の楽天カード決済・勘定系システムの大規模障害の件があるのかも知れません。また、スマホ決済サービスの「楽天Pay」もあれば、KDDIとの提携もあります。楽天の名を借りてKDDIもこの官製ポイント還元事業に参画してくる可能性は十分にあります。
ビューカードやNTTドコモは内定リストに含まれていない
ビューカードはJR東日本を母体とする企業です。NTTドコモは日本電信電話を母体とする企業です。いずれも親方日の丸色が強いため、「民業圧迫」を理由に今回は遠慮してくれという通達なり忖度があったのかも知れません。
個人的には、コンタクトレス決済サービス「iD (アイディ)」 を日本に浸透させ、非クレジットカードの決済サービスを広く日本に普及させたドコモを排除するのは本末転倒な気がします。今こそ活躍の時であると思うのですが。メガキャリアであるKDDI (楽天経由?)、ソフトバンク (PayPay)、第四のキャリアに名乗りを挙げた楽天は何らかの形で参画しているのに。
また、メガバンクでみずほとりそなが参加していないのにも疑問符が付きます。
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外資は排除?
アメリカン・エキスプレスやダイナースクラブの日本における発行権を持つ三井住友トラストクラブは内定事業者に含まれていません。また、VISA、Mastercardも同様であることから、キャッシュレス化を推進したいとは言え、外資系企業にお金が多く落ちるであろう、「国際ブランドによるコンタクトレス決済」は許容できないという事でしょうか。
決済ごとにポイント付与の対象か否かの処理が必要になるため、国際ブランドコンタクトレスだと連携が大変という理由が大きいのかも知れません。
でも「外資を排除する」ならLINEが居るのはおかしい話なんですがね。
国内で一般的に使用されていないサービスは対象外の方針なのでは?
「国内で一般的に使用されていない」支付宝 (アリペイ)は対象外なのに、やっと認知され始めたPayPayが何故ここに?
クレジットカード登録処理の大穴を指摘されて世間から「危ない」と認知されているであろうPayPayがなぜここに居座っているのでしょうか。初めから広く使われていようがいまいがソフトバンクとYahoo! が出資するPayPayは内定が決まっていたようにしか見えません。
「いう事きかないと、みずほ銀行から借りてる借金10兆円以上を延滞して金融危機起こしてやるぞこの野郎」と、経産省を脅しでもしたのでしょうか・・・
「今後、増える見込み」とあるが
いつ、どういう基準で増えていくのかも明確になっていません。体力のある企業だけが儲かる体制になるのは勘弁してほしいところです。
おわりに
今回は、消費税増税に伴う景気対策としての「ポイント還元」の概要、そのインフラを担う14社が経産省によって選定されたというお話と、その選定基準が全くもって不透明であるというお話でした。
最後まで読んで下さってありがとうございました。