昨年の12月16日、KDDIがPonta陣営との資本業務提携を発表しました。KDDIはPontaを運営するロイヤリティマーケティング(LM)社に20%出資(筆頭株主である三菱商事から譲渡)、更にLMの株主であるローソンにも2.1%の出資を行います。これにより完全にPontaとガッツリ提携します。2020年5月以降、au WALLETとPontaが統合され、PontaアプリにauのQRコード決済サービスであるau PAYを実装し、au IDとPonta IDの連携が行われます。
これにより会員数1億人以上、1ポイント=1円とした場合、2000億円相当の金額が動く巨大サービスが誕生する、とされています。
あれ?でもauって楽天と組んでたんじゃ・・・。楽天スーパーポイントや楽天Payと思い切り競合しそうだけどいいのかな?
ニュースメディアではさらりと流されてしまったこのニュース、携帯電話キャリア各社が擁するポイントプログラムやQRコード決済、果ては提携クレジットカード会社まで巻き込んだ業界勢力図を塗り替えるかもしれません。今回はこのニュースのインパクトについて考察してみます。
auと楽天の提携は「競争を促進」させるためのもの
2019年12月15日以前の勢力図
これまでの携帯電話キャリア・航空会社を軸にしたポイントプログラムの対立構造を図に示しました。
2019年12月15日以前はこの通り、au (KDDI) と楽天は携帯電話事業を核として協業を行っており、ポイント相互交換や航空会社のマイレージプログラムとの交換も考慮すると、
- NTTドコモ + JAL + 三菱UFJニコス + Ponta
- KDDI + ANA + SMBCカード + 楽天
- ソフトバンク (& Yahoo!) + Tポイント + PayPay
といった三つの勢力に大別することが出来ていました。
そもそもauと楽天が事業提携していたが・・・
楽天モバイルが旧イーモバイル、イー・アクセス亡き後の第四のキャリアとして名乗りを挙げたのは記憶に新しいところです。携帯電話キャリアとして、MVNOではなくMNOとしての参入であるためハードルが非常に高いのですが、楽天としてはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手三社のいずれかと提携の上、相当な費用を払って地方の通信設備を借りつつ主要都市部は自前で設備を打つという途方もない出費を強いられるところでした。
MVNOとMNOの違い
- MVNO ・・・大手事業者の設備を間借りしてサービスを提供
- MNO ・・・最低限、東名阪主要エリアの通信設備を自前で保有・通信サービスを自前で運営
通信事業者として設備を自前で運営するのは千億円単位の資金が必要です。そのため参入障壁が非常に高い事業であると言えますね。
元々NTTドコモのネットワークを借りてMVNO事業を展開していた楽天ですが、「ドコモと競合するMNO事業までドコモの設備を借りてやるのはいかがなものか」と苦言を呈されていた事もあり、交渉が難航していました。そのためKDDIとの提携はまさに渡りに船でした。一方のKDDIにとっても楽天の面倒を見ることで得られると見込んでいた決済事業やEC事業におけるメリットは大きかったのです
互いの思惑が一致した結果、2018年11月1日、KDDIと楽天が、「通信・物流・決済分野で業務提携を行う」という発表がなされる運びとなりました。
2018年当時の各キャリアの決済事業・EC事業の状況
2018年11月以前の携帯電話キャリアの状況を振り返ると、auの通信事業以外での出遅れが目立っていました。
- ドコモ ・・・ ドコモ契約者以外にもdアカウントを開放、共通ポイントプログラムであるdポイントを核として、クレジットカードのdカード、QR決済サービスのd払いを展開。iDという国際ブランドに匹敵するサービスも保有。dマーケット等EC事業も積極的に拡大。
- ソフトバンク ・・・ Yahoo! による検索サービス、広告サービス、Yahoo! ショッピングをはじめとするEC事業を多角的に経営。グループ内にPayPayを擁しておりQRコード決済では一歩も二歩も先を行く。Tポイントとの提携により共通ポイントプログラムにも深く食い込んでいた。
- au ・・・ au IDはau回線契約者のみのクローズドサービス(※.1)だったため、au WALLETカードの普及が進まない。QRコード決済事業 (au PAY) も出遅れ、共通ポイントプログラム (WALLETポイント) も普及が進まず、EC事業にも出遅れていた。
こうしたauの悩みを解決してくれるであろうノウハウを持っていたのが楽天だったというわけです。
※.1 … 因みに2019年8月、ようやくau IDも他キャリアユーザでも登録可能になりました。今更感が強いですが。
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auと楽天は競争相手?
ふたを開けてみると、「両社のアセットを相互活用し、サービス競争を促進」とあります。つまり互いの持つサービスインフラを利用するけど競争相手である事には変わりませんよ、という内容とも読み取れます。
そう考えると、auも楽天の決済基盤の一部を活用しつつ楽天ポイントと思い切り競合するPontaと組んだりしても問題ないという事になるんでしょうか。ちょっとえげつない様にも見えますが、楽天も楽天でauの通信設備を一部地域で使って楽天モバイルというauの競合サービスを展開するのでお互い様って事になりそうです。
楽天が通信基盤を全国レベルで整備するか、auが自社だけで全部まかなえるレベルの決済基盤を持てるようになれば自ずと相手に依存する必要もなくなるため、この関係もおのずと解消されそうなものですが、インフラ整備には百億~千億円単位での資金が必要になるためそうそう短期間での提携解消にはならないと思われます。
QRコード決済でauがPontaと提携、どんなインパクトがあるのか?
auとPontaの提携内容の要点
今回のニュースを評価する前提について説明してきましたが、ここからは実際のインパクトについて考えてみます。改めて今回の業務提携の要点について整理してみます。
auとPonta提携のポイント
- au IDとPonta IDの連携
- au WALLETがPontaポイントに統合される
- Pontaアプリにau PAYによる決済機能を搭載予定
- ポイント統合は2020年5月以降
auは共通プログラムがない、Pontaは決済サービスが弱い、という互いの弱点を補うための提携
お世辞にもauのWALLETポイントはPontaやdポイント程普及しているとは言えません。それもこれもau IDを長らくau回線契約者にしか提供していなかったことが主たる原因と言えるでしょう。
一方、PontaはPontaで決済サービスでポイントをそのまま使えないという弱点が残っていました。d払いの様にdポイントをQR決済サービスの支払いに充てる、といったことが出来ません。
そのため、今回の業務提携は互いの弱点を補完し合うための提携と言えそうです。
ポイントプログラムの勢力図が変わるか?
以前のポイントプログラム勢力図を再掲します。
今回の提携でWALLETポイントがPontaに統合されてしまうと言われていますが、Pontaに統合されてしまう場合どんな影響が考えられるでしょうか。
auの回線利用で貯めたWALLETポイントをJALマイルに交換可能に
WALLETポイントがPontaに統合されるのであれば、Ponta → JALマイルへの交換によって日々のスマホやau光などの利用料金支払いでJALマイルを貯められるようになるかも?
これまでもWALLETポイント → マツキヨポイント → JALマイルというルートで交換が可能でしたが最短で60日程度を要し、WALLETポイント500ポイントに対してJAL 200マイルしかもらえませんでした。
Pontaからの交換になれば2ポイント = 1マイルのレートになるので良いレートでJALマイルへ変換可能になることになります。JALマイル増量キャンペーン中であれば2ポイント = 1.2マイルのレートになるため更に高効率です。
【体験記事】全Pontaポイントをマイル20%増量キャンペーンでJALマイルに交換した結果
今回はショッピングで貯まるPontaポイントを効率よくJALマイルへ交換する系のお話です。今年の3月31日まで、「Pon ...
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因みにWALLETポイントからANAマイルへの交換は、WALLETポイント500ポイントに対してANA 100マイルにしかなりません。非常にレートが悪く交換する意味があまりなかったため、選択肢が増えるのは純粋に良い事です。Pontaへ統合されたらこの交換ルートが維持されるでしょうか?
Pontaは株式の関係上、ANAマイルへの直接交換は難しそうなのであまり期待できなさそうです。
Pontaポイントの説明書2018年版~何故JALマイルに交換できてANAマイルはダメなの?答えは株にあった!~
今回は共通ポイント「Pontaポイント」について、なぜJALマイルに交換できるのにANAマイルはダメなのか、なぜローソン ...
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au回線利用、au WALLETカードで貯めたPontaでリクルート系サービスを利用
今後はポンパレモールやじゃらん.netといったリクルートが提供するサービスの支払いにWALLETポイントを充てられるようになるかも知れません。選択肢が増えるのは良い事です。
QRコード決済でもPontaに獲得ポイントをまとめられる
これまでローソンでの買い物でQRコード決済サービスで支払う際、もらえるポイントをひとまとめにしたい場合は、dポイントカードを提示してd払いをするしかありませんでした。今後はPontaポイントカードを提示して、au PAYで支払えばPontaにポイントがまとめられることになることが期待できます。
WALLETポイントと比較するとPontaの方がかなり汎用性が高いため、余さずポイントを使えると言う点でメリットは大きいです。
WALLETポイント、dポイント相互交換可能に
Ponta化されてしまうならあまり交換する意味がないかも知れませんが、auのサービスで貯めたポイントがdポイントに等価交換可能になるかも知れません。現在、dポイントが僅かに交換手数料を取られますがPontaへ交換できるので、相互交換可能になることも考えられます。
どうにもANAマイラーにとってあまり良い事はなさそうですが、元々ANAマイルを貯めている方はANA VISAワイドゴールドやANA AMEXを使っている方が多いと思いますので、大きな影響はないと思います。
逆にJALマイラーの方にとってはau回線で貯めたWALLETポイントをJALマイルに交換しやすくなるため、望ましい話と言えるでしょう。
ビッグ3キャリア+楽天系サービスへ再編か
MPoA (Mobile Payment Alliance) というスマホ決済事業者のアライアンスがありましたが、これも2019年末に解散しています。NTTドコモ、KDDI (au)、LINE Pay、メルペイが参加していましたが、LINE PayがYahoo! と統合、つまりPayPay側に取り込まれるということで最早アライアンスを維持する意味がなくなってきたのでしょうか。メルペイは言うまでもなく見る影もありません。
- NTTはdカード、d払い、dポイント。
- KDDIはau WALLETカード、au PAY、Pontaポイント
- ソフトバンクはYahoo! JAPANカード、PayPay、Tポイント
- 楽天は楽天カード、楽天Pay、楽天スーパーポイント
auはPontaと組んでau PAYを普及させることが喫緊の課題でしょう。Pontaユーザの日々の決済手数料がau PAY経由で入ってくるようになればそれなりに美味しいビジネスになりそうです。もしかしてauとPontaのコラボクレジットカードなんかも出しちゃうんでしょうか?
ソフトバンクはTポイントを見捨ててPayPayを後継のポイントプログラムとしたい様ですが、まだまだ共通ポイントとして認知されていません。また、PayPayの加盟店手数料ゼロキャンペーンやポイント大量還元キャンペーンをいつまでも続けるわけにもいかないでしょうし、今後の動向に注目です。こちらもクレジットカード事業をYahoo! JAPANカードだけで続けていくのか、PayPay特化型の新クレジットカードをリリースしてきたりするんでしょうか?
おわりに
今回は、au WALLETポイントのPontaへの統合と、それに伴う共通ポイントプログラムの再編についてのお話でした。
やはり親方日の丸なせいか、元々iDやQUICPAY開発に10年以上前から携わっていたせいか、この手の共通ポイントプログラムと決済ビジネスはドコモ陣営が頭一つ抜けて強い様に見えます。dアカウントのオープン化に踏み切った英断あってこそでもありますが。
今年5月以降のWALLETポイントとPontaとの統合は目が離せませんね。システム開発担当の方々はとても辛いかも知れませんが、快適なキャッシュレスライフのためにひと踏ん張りお願いします!