前回の記事で、クレジットカードのいわゆる「共通枠」についてお話ししました。今回は共通枠をとっているクレジットカード会社の中でもとりわけ複雑な共通枠を設定している、三菱UFJニコス発行のクレジットカードの共通枠のお話を書きたいと思います。
三菱UFJニコスは今でこそ数あるクレジットカード会社の中でも最大手クラスです。しかしご存じのとおり、母体となるMUFG (三菱UFJフィナンシャルグループ) は合併による合併を重ねて巨大化してきており、非常に複雑な歴史を持っています。当然ながらその配下のクレジットカード事業を行う会社とて合併の波からは逃れることは出来ませんでした。今回は三菱UFJニコスの歴史にも触れつつ、共通枠の説明をしたいと思います。
共通枠って何?という方はコチラの記事を読んでみて下さい 今回は単純なようで複雑な、クレジットカードの利用限度額における、いわゆる「共通枠」についてのお話をしたいと思います。「共 ...
クレジットカード利用限度額の「共通枠」
三菱UFJニコス発行のクレジットカード共通枠は「3つのカード会社分」存在する
三菱UFJニコスは、以下の3つのクレジットカード会社が吸収・合併することにより設立された大手クレジットカード会社です。
- 株式会社ディーシーカード (DCカードブランド)
- 日本信販株式会社 (NICOSブランド)
- 株式会社UFJカード (MUFGカードブランド)
三菱UFJニコス発行のカードに、都合3社分の共通枠が存在している理由は、未だに社内で三社分立とも言える体制が敷かれており、それぞれ旧DC組や旧NICOS組がクレジットカード審査・発行・管理業務を行っていることが原因です。なぜこんなことになっているのかという理由について、推測ですが、クレジットカード勘定系のシステム統合が非常に困難であることが背景にあると考えられます。
15年ほど前になりますが、みずほ銀行の統合時のシステム大規模傷害や、最近だと楽天カードのシステム刷新による数日間の一部機能傷害は記憶に新しい方が多いでしょう。クレジットカードや銀行など金融機関のシステム刷新や統合は、非常に綿密な計画と検証に基づいて行われる必要があり、膨大な資金と時間を要するものです。ひとつ間違えれば大事故につながるため、システム統合に二の足を踏んでしまうのも無理はありません。
DCカードブランドの共通枠
DCカードブランドのクレジットカードには、券面またはカード裏面に上記のDCカードロゴが描かれています。
- DCカード
- DCカードJizile)
- JALカード (VISA, Mastercardブランド
- JMB KIPSカード
- GDOカード
- TEPCOカード
- etc.
上記のカードが該当します。
これらのクレジットカードを複数持っている場合、DCカードブランド共通枠が設定され、複数カードで利用枠をシェアすることになります。
NICOSカードブランドの共通枠
NICOSブランドのクレジットカードには、券面またはカード裏面に上記のNICOSロゴが描かれています。
- NICOSカード
- VIASOカード全般
- Tokyo Metro ToMeカード (NICOSブランド)
- 三菱地所カード
- JAカード
- etc.
上記のカードが該当します。
これらのクレジットカードを複数持っている場合、NICOSカードブランド共通枠が設定され、複数カードで利用枠をシェアすることになります。
MUFGカードブランドの共通枠
- MUFGカードブランドのクレジットカードには、券面またはカード裏面に上記のMUFG CARDロゴが描かれています。
旧UFJカードおよび、三社統合ブランドとして発足したMUFGカードがこれに該当します。
- MUFGイニシャルカード
- MUFGカード ゴールド
- MUFGカード ゴールドプレステージ
- MUFGカード プラチナ・アメリカン・エキスプレス・カード
- リクルートカード (VISA/Mastercardブランド)
- スヌーピーカード
- KIPSカード
- MileagePlus MUFGカード (旧ワンパスUFJカード)
- J-WESTカード
- JQカード
- セントレアカード
- etc.
上記のカードが該当します。
これらのクレジットカードを複数持っている場合、MUFGカードブランド共通枠が設定され、複数カードで利用枠をシェアすることになります。
三社統合共通枠
DC、NICOS、MUFG (旧UFJ含む) と3つの共通枠だけならいいのですが、三菱UFJニコスは割賦販売法にかなり厳密に則って計算しているのか、きちんと「三菱UFJニコスとして」あなたに〇〇円までの与信を行いますよ、という枠を設定しています。
そのため、DCカード共通枠 + NICOSカード共通枠 + MUFGカード共通枠 = あなたの与信額、ではありません。
以下、三社統合共通枠 (勝手に命名) の例を挙げつつ説明します。
- DCカード共通枠 … 200万円 (JALカードのみ)
- NICOSカード共通枠 … 100万円 (ToMeカード、三菱地所カードでシェア)
- MUFGカード共通枠 … 500万円 (MUFGプラチナアメックス、リクルートカード、JALアメックスでシェア)
これに対して、三社統合共通枠は643万円でした。恐らく割賦販売法の与信計算に則って、いわゆる支払可能見込額を計算した結果を当てはめている様に見えます。
(税込み年収 - 住宅・生活維持費 - クレジット債務) x 0.9 = 三社共通統合枠
という計算を行っているものと推測されます。
因みに、DCカードはJAL CLUB-A GOLDのS枠200万円、NICOSカードはTokyo Metro ToMeカードPrimeのS枠100万円、MUFGカードは、MUFGプラチナアメックスのS枠500万円、がそれぞれ適用されています。個々のブランドのクレジットカードの中での最大利用枠を合計したものと、年収ベースの与信可能額を比較し、その内の低い方を適用していると思われます。
とは言え、MUFGプラチナアメックスはS枠500万とは言え、リボ・分割枠は100万しかないので (元々そういうカードです)、やや機械的に算出されてしまっている気がします。割賦販売法の包括支払可能見込額ってリボ・分割・ボーナス払いに対しての適用ですので。しかしCICにも極度額500万円と記載されてしまっているので、リボ・分割枠100万を含むS枠500万円が計算に使われているのは間違いなさそうです。
※ 年収に比して既存カードのS枠が高すぎると、新規入会時の審査に悪影響が及ぶと言う方もいますがどうなんでしょう。包括支払可能見込額を参考に最終的に各社独自の判断で与信しているのが実態だと思いますが…。
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三菱UFJニコスの歴史
ディーシーカード (DCカード)
旧三菱銀行系のクレジットカード会社です。1967年に「ダイヤモンドクレジット」という社名で設立されたのが始まりです。その後、1989年には業界初のVISA、Mastercardブランドのクレジットカードをデュアル発行するサービスを開始しました。今のデュアルスタイルの元祖です。このとき社名を「株式会社ディーシーカード」に変更しています。
2007年4月1日に、UFJニコスと合併し、三菱UFJニコスが誕生しました。
日本信販 (NICOSカード)
1951年に、日本百貨サービスの創業者、山田光成氏により、「日本信用販売株式会社」が設立されたのが始まりです。当初はいわゆるクーポン券による割賦販売をあっせんする業務を行っていました。その後、1961年には旧三和銀行(※.1)、東洋信託銀行(※.2)と共同出資で、「日本クレジットビューロー(※.3)」を設立しています。1987年にVISA、Mastercard発行権を獲得しクレジットカード事業に乗り出しました。その後、1991年にはカードブランドを日本信販からNICOSに変更しています。
※.1 … 現在の三菱UFJ銀行
※.2 … 現在の三菱UFJ信託銀行
※.3 … 現在のJCB (つまりJapan Credit Bureauなわけですね)
日本のクレジットカード史に大きな足跡を残した日本信販ですが、2000年頃には経営難に陥っており、2004年にはUFJ銀行に買収され連結子会社になっています。その後、2005年にUFJグループ内のUFJカードと統合し、UFJニコスが誕生しました。
UFJカード (旧UFJカード、現MUFGカード)
1968年、東海銀行 (※.1) 系クレジットカード会社として「株式会社ミリオンカード・サービス」が設立されたのが始まりです。
その後、2002年のUFJ銀行発足に足並みをそろえて、ミリオンカード・サービスがフィナンシャルワンカード (旧三和銀行系など3社合併して成立したカード会社)を買収し、4社統合のカード会社として「UFJカード」が誕生しました。この時にブランド名をミリオンカードから、UFJカードに変更しています。
2005年に日本信販に買収され、UFJニコスになり、2007年のDCカードとの合併で三菱UFJニコス誕生に至ります。
しかしながら、三菱UFJニコスを構成するクレジットカード会社三社の統合ブランドであるMUFGカードは、旧UFJカードのインフラを利用しています。この事実を見ると、実際の勝者はUFJだったのでしょうか?単に最も先進的で使いやすかったから?それとも面倒な部分を押し付けられただけなのでしょうか?